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EOSの金属3Dプリンタ技術が支えるJAXAのH3ロケットの挑戦

2022/07/25

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Okada Masashi

岡田 匡史

国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
宇宙輸送技術部門 H3 プロジェクトチーム プロジェクトマネージャー
岡田 匡史は、1989年、旧宇宙開発事業団(NASDA)に入職後、角田ロケット開発センター、種子島宇宙センター(ロケットエンジン開発試験担当)、H-IIAプロジェクトチーム等で液体ロケット開発に参加。その後、チーフエンジニア・オフィスでのJAXA技術力向上担当、宇宙輸送ミッション本部での将来宇宙輸送システムの企画担当を経て、2015年、H3ロケット開発のプロジェクトマネージャーに任命され、現在に至る。
テーマ:「JAXA のプロジェクトマネージャーが語る3D プリンタ技術が支えるH3 ロケットの挑戦」

2022年1月27日

宇宙空間の利用は、地上の技術革新とリンクすることで近年急速に発展しています。技術革新の1 つが3Dプリンタであり、最終段階にさしかかっているH3 ロケットの開発では、キーテクノロジーとして利用されています。H3 ロケットの目指す姿と現在の開発状況、3D プリンタへの期待、またシステム開発上の技術マネジメントについて、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)にてプロジェクトマネージャーを務める岡田匡史氏が語ります

H3ロケット開発の動機

JAXAといえば、航空宇宙に関する研究開発を進める日本国内の重要な機関です。岡田氏はまずJAXAの全体概要を紹介しました。以下の図は、JAXAがプロジェクトとして進めているものです。これらのミッションをさらに発展させるとともに、世の中で急激に進む技術開発を活かして宇宙利用の革新を進めようとしています。その中で、取り組みを推進する重要な要素の1つに挙げられるのが、次期基幹ロケットとして開発中の「H3ロケット」です。

説明の様子1  3Dプリンターへの期待

宇宙開発はロケットが下支えしてきたものと言っても過言ではありません。これまでのH-IIAとH-IIBロケットの打ち上げ成功率は、0.981です。50回以上打ち上げた中で、1回だけ痛い思いをしてしまったものの、その取り組みは順風満帆だといえます。

しかし、成功とともに見えてきた課題もあるといいます。例えば、現在のH-IIAロケットは30年前のコンセプトでできているため、打ち上げ能力が現在のミッションに見合わなかったり、世界のロケット市場での価格競争力が低下していたりすることが挙げられます。また、しばらく開発をしていなければ技術力を蓄えられず設備も古くなります。

こうした課題が複雑に絡み合って、このままでは10年後にロケットを維持できなくなるのではないかという危機感があったと岡田氏は言います。そこで大きな期待を寄せられたのがH3ロケットです。この開発によって、日本がいつでも必要なときに自分たちで宇宙に行ける機会を持つとともに、将来に対して持続的に事業が続く新しいビジネスモデルを考えることを狙いとしました。

H3ロケットの目指すコンセプトと新技術

H3ロケットの目指すコンセプトとして、岡田氏は以下の図を示します。これまでは注文から打ち上げまで約2年、打ち上げ間隔約2カ月、種子島に持って行ってから組み立てに約1カ月かかっていたリードタイムを半分に削減することを目指すというものです。さらに、頻繁な打ち上げにも耐えられるシステムが必要です。

説明の様子2  3Dプリンターへの期待

このロケットの低価格化やコストダウンは、製造、設計、運用といろいろな面からアプローチが可能です。一例としては、電子部品に自動車用電子部品が採用されています。すでに90%を自動車用が占めており、これは日本の自動車技術の信頼性の高さを示しているとも言えるでしょう。

ロケットのキーテクノロジーとなるのがロケットエンジンです。新しいLE-9エンジンは現在のLE-7Aエンジンに比べて非常に簡素なシステムですが、推力が1.3から1.4倍。ジャンボジェットエンジン5基分ぐらいの推力を一基で出すことができるものです。そのために高性能のターボポンプが毎秒700回転することで、700リットルの液体水素燃料を供給し、燃焼させています。

エンジンの開発においては3Dプリンタを使用しており、その取り組みはNTTデータ ザムテクノロジーズと共同して行われています。また、推力を変更するためのバルブに電動バルブを導入しており、これは世界初のことです。

説明の様子3  3Dプリンターへの期待

エンジン部品に3Dプリンタ技術を適用

実際に、下図に示すものがロケットエンジンであり、赤色の部品が3Dプリンタによって作られています。

説明の様子4  3Dプリンターへの期待

3Dプリンタ技術で特徴的なのは自在性と経済性です。複雑な形状の部品を一体で作ることで、加工工数を減らしたり特殊な工程を減らしたりできます。さらに、数十ミクロンオーダーの精度で加工が可能です。試作開発期間が短いため、ラピッドプロトタイピングにも向いています。

経済性については、例えばエンジンの噴射器は約500個の部品からできており、1つずつ部品を作ってつなげるのではなく、3Dプリンタで一気に作成することで、劇的なコストダウンが図れます。

世界の潮流として現在は、ロケットの大きな部品を3Dプリンタで造形できるようになりつつあります。日本もコスト競争力を高めるために、JAXAでもさらに3Dプリンタ技術を適用したいと考えているといいます。今後のH3を改良したロケットについては、大きな燃料タンクを一気に3Dプリンタで造形できないかという検討も行われています。

説明の様子5  3Dプリンターへの期待

ロケット開発であるべきプロジェクトマネジメントとは

最後に岡田氏は、ロケット開発のプロジェクトマネジメントについての見解を語りました。

ロケット開発プロジェクトには、技術、エンジニアリングはもちろん、適切なプロジェクトマネジメントの実践を欠かすことができません。このうちプロジェクトマネジメントに関して岡田氏は「計画」「実行」「リスク」の3点から意見を述べています。

まず「計画」については、教科書的には制約条件のバランスを常に考えながら、プロジェクトを進めてアウトプットすることが基本になります。しかし、実際にはいろいろな制約条件が厳しすぎて、バランスがとれないことも多いといいます。解決には知恵を絞って答えを作るしかありません。しかし、考えていくと余裕が生まれてきて、バランスがとれることもあると岡田氏は言います。つまり「粘る」ということが1つのポイントになります。

次に「実行」です。担当者への責任と権限の委譲という観点では、バランスが重要であり、マイクロマネジメントは基本的に行うべきでないという考えがあります。しかし、丁寧なマネジメントは必要です。責任を委譲した担当者とは、程よい距離感を保つように考えながら仕事をしていると岡田氏は言います。もちろん、委譲したからといって任せっぱなしではなく、プロジェクトマネージャーはすべて知っている状態であることが理想的だといいます。

最後の観点が「リスク」です。ロケット開発では徹底的なリスクマネジメントが不可欠です。リスクを一番わかっているのは担当者ですが、当事者は「きっとうまくいくだろう」と楽観的になりやすい問題があります。また、組織は集団催眠にかかりやすいため、リスクには常に客観的な意識を持って向き合わなければならないと岡田氏は語ります。

技術マネジメントに万能な策はないと岡田氏は言います。基本である型やベストプラクティスを謙虚に学んで模索しながら自分で実践していき、決して思考停止せずに取り組みを進めていくことが求められるといえるでしょう。

本記事は、2022年1月27日、28日に開催されたNTT DATA Innovation Conference 2022での講演をもとに構成しています。

NTT DATA Innovation Conference Webサイト:https://www.nttdata.com/jp/ja/innovation-conference/

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日本のロケット開発を推進してきた宇宙航空研究開発機構様と三菱重工業株式会社様は、 次世代の基幹ロケットであるH3 ロケットの開発に取り組んでいます。 弊社の前身であるNTT データエンジニアリングシステムズの季刊誌「人とシステム」 2020 年4 月版に掲載した、三菱重工業株式会社 小河原様、平松様へのインタビュー記 事からお二方の発言を抜粋したものです。

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