作業の様子

製品活用事例CASE STUDY

2025.03.17

Payr Engineering 様

パルプモールドの型を樹脂3Dプリンターで成形し、生産プロセスを最適化

Source: EOS, Payr Engineering

Short Summary

課題:

  • 手作業による高コストと長い生産リードタイム
  • 輸送コスト
  • 小ロット生産の非効率性

解決方法:

  • EOS P 396を利用し、パルプモールドの生産プロセスを最適化

結果:

  • 型コストを50%削減
  • 生産リードタイムを短縮
  • 革新的な排水構造の実現で、性能と品質が向上
  • 小ロット生産の効率化
  • 環境負荷を軽減

本記事は、EOS社の活用事例を和訳したものです。

パルプモールド(パルプ成形品)とは

一般的にはあまり知られていない、パルプモールドという言葉。しかしながら、それは私たちの生活でよく目にしているものです。

近年、古紙や牧草などの再生可能な繊維素材から作られる、リサイクル可能なパッケージを利用する企業が増えています。特に小売業では、卵のパックから電子機器、家電製品の保護パッケージまで、パルプモールドの用途は多岐にわたります。

そして、近年の技術の進歩によって、今では撥油性や耐水性を兼ね備えたものもあり、プラスチックフリーで叶えられる機能が増えています。

結果的に様々な用途で人気となったパルプモールドですが、その拡大した需要に対し、生産プロセスに課題がありました。

課題

パルプモールドの生産は手作業が発生するため高価であり、完成までに時間がかかるプロセスでした。

また、アジア地域を生産拠点としていたため、輸送コストが負担となっていました。

それだけでなく、金型を必要とするため、バリエーション違いなどの小ロット生産においては特にコスト効率が悪くなっていました。

オーストリアのエンジニアリング・サービスプロバイダーであるPayr Engineering社は、アディティブ・マニュファクチャリング(AM)でパルプモールドの生産ツールを最適化し、生産プロセス全体の改善を行いました。

現在の生産プロセスにおける課題

  • 手作業による高コスト
  • 長い生産リードタイム
  • 輸送コスト
  • 小ロット生産の非効率性

パルプモールドの生産プロセス

  1. 金型を作り、全体に無数の穴をあける。
  2. 金型の表面にスクリーン(金網)を張る。
  3. タンクに水を張り、パルプの原料を溶かす
  4. パルプのタンクに金型を沈める
  5. 金型にあけた穴を利用し、金型の裏側からパルプの原料を吸引する
  6. スクリーンがパルプを漉す形で水だけを通し、吸着し残ったパルプが製品の形になる
  7. 成形したものを取り出し、乾燥させる
  8. プレス加工を行う

パルプモールドの生産プロセス上、パルプの原料の流れ抵抗を正しくコントロールするためには形状の精度が最重要でした。

例えば、成形されたパルプを脱水し乾燥するためには、金型の排水構造が重要になります。排水構造の形状によって、金型へのパルプの付着量が変わり、最終的にはパッケージの安定性にも影響を与えます。

また、排水性が水分の残存量にも影響を与えるため、うまく排水されないとその後の乾燥のプロセスが長くなってしまいます。

解決策(ソリューション)

現在の生産プロセスを最適化すべく代替手段を探した結果、Payr Engineering社はAM技術にたどり着きました。

使用する樹脂3DプリンターはEOS P 396で、材料はPA12を選択。

PA12はAMにおいて一般的な材料で、安価でありながらも十分な強度があります。

Payr Engineering社は精度が重要となる微細なスクリーン構造を見事に再現することができました。

「EOSは、極めて高性能な製品であるEOS P 396をラインナップしています。この製品は特にラティス構造において、他の有名メーカーを大きく上回る性能を誇ります。パルプモールドに必要な安定性は、他の装置では達成できませんでした。」

“EOS has an extremely high-performance product in its portfolio with the EOS P 396. The performance significantly exceeds that of other known manufacturers, especially with regard to lattice structures. We have not been able to achieve the stability of the component needed for this application with any other device.”

Peter Paul Payr, Managing Director of Payr Engineering

使用したシステム・材料

3Dプリンター:EOS P 396

材料     :PA2200

結果

AM技術を適用し生産プロセスを最適化したことで、多くのメリットを得ることができました。

コストの削減(-50%)

  • 生産ツールの製造コストが、従来の製造方法と比較すると少なくとも50%安価に。

パルプモールドに必要な金型とスクリーン(金網)は、金属製のコアとラティス構造という2つのコンポーネントで構成されており、手作業が必要とされていました。

そこでAM技術を活用し、排水構造を金型全体へ規則的に分布させる革新的な形状を開発しました。これにより、金型と排水機能を一体化した部品の成形が可能となり、従来の製法と比較して生産ツールの製造コストを少なくとも50%削減することができました。

Source: EOS, Payr Engineering

3Dプリントで作られたツール (左) は、再生可能な原料からプラスチックを使わないパッケージ (右) を従来の半分のコストで作ることができます。

また、従来は手作業の工程をアジア地域に依存していましたが、AM技術の導入により製造工程が1つに簡素化され、手作業によるコストと輸送費の両方を削減することもできました。

生産リードタイムの短縮(数か月 → 数週間)

  • 従来は数か月かかっていた調達時間が、数週間に短縮。

生産ツールを一体化成形で製造できるようになり、アジア地域での手作業が不要になりました。それによって生産時間だけでなく、輸送時間も短縮することができ、プロセス全体が加速しました。

従来の製法では調達に数か月かかっていたところを、3Dプリンターの活用によって数週間にまで短縮することができるようになりました。

性能と品質の向上

  • 革新的な排水機能の開発により性能が向上し、最終製品の品質も向上。

AMによって設計の自由度が向上した結果、製品の品質を左右する吸引と排水の構造を最適化することができ、最終製品の品質が向上しました。

Source: EOS, Payr Engineering

また、肉厚を可変にした成形もできるようになり、場所によって厚みを変えた形状のパルプモールドを生産できるようになりました。これによって厚みが不要な部分への材料消費を削減しながら、乾燥に必要となるエネルギーを削減することもできます。

小ロット生産の効率化

  • 3Dプリンティングによる型で、小ロット生産もコスト効率よく製造可能に。

従来の方法では小ロット生産が非効率的でコストが高くなっていましたが、AM技術の適用により、生産ツールを従来よりも50%安価に製造できるようになりました。その結果、少量やバリエーション違いのパッケージの製造においても、コスト効率よく生産できるようになりました。

環境負荷の軽減

  • CO2の排出量が削減

生産プロセスを最適化しアジア地域への依存がなくなったことで、輸送距離が短縮。

その結果、輸送に伴う二酸化炭素の排出量を削減することができました。

「EOSの3Dプリンターを使用することで、他のサプライヤーのマシンでは実現できなかった堅牢なコンポーネントを製造することができます。」

“Using EOS machines we are able to produce robust components that couldn’t be manufactured with machines from other suppliers.”

Peter Paul Payr, Managing Director of Payr Engineering

「私たちは、市場投入までの時間とコストを削減しながら、品質のバラつきを無くすことができます。また、お客様はサプライチェーン・レジリエンスを高め、輸送コストを削減し、プラスチック包装の使用量を減らすことが可能です。」

“We can eliminate quality fluctuations while reducing costs and time to market. Our customers become more resilient in the supply chain, reduce transportation costs and the quantity of plastic packaging.“

Peter Paul Payr, Managing Director of Payr Engineering

Payr Engineering社は3Dプリンティング技術を活用することで、コスト削減や品質・性能の向上、生産リードタイムの短縮、環境負荷の軽減を同時に実現しています。

よりサステナブルな製品として、パルプモールドの競争力は今後さらに高まり、より多くのプラスチック包装に取って代わることができるでしょう。

製品紹介

EOS P3 NEXT (EOS P 396の後継機)

試作から量産まで柔軟に対応できるスタンダードモデル

適正なコストで高い生産性を実現

造形領域全体を通して均一な造形ができる、高品質を追求するEOSの標準となる3Dプリンター。

プレスキャン・リコーティング・冷却を高速化したことで、従来機よりも生産性を最大50%向上しています。また、柔軟なパラメータ調整機能と材料の多様性により、寸法精度・表面仕上げ・機械的特性も向上しています。

Source: EOS

企業情報

Payr Engineering

1998年の設立以来、幅広い分野で製品の開発・設計から生産、組み立て、試運転までの一貫したサービスを提供しているオーストリアの企業。

ISO 9001:2015およびEN 1090の認証を取得しており、高い品質と安全性を確保している。

https://www.payr.co.at/en


(株)NTTデータ ザムテクノロジーズでは、

3Dプリンター、用途開発、受託製造、金属材料開発など、

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会社概要​COMPANY

  • 会社情報​ABOUT US

    VISION:AMをものづくりのあたりまえに
    MISSION:AMの実践者であり先導者として、産業化されたAMプロセスを実現する

  • 製品・サービス​SOLUTION

    AM装置の販売からメンテナンス、受託生産、ソリューション開発に至るまで、
    AMに関するさまざまな事業を展開しています。