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2021.06.29

AM四方山話 #9 STLデータ

STLの歴史

 Charles W.Hull(Chuck Hull)氏が初めて商品化した光造形装置が3Dプリンタの起源であることは以前述べましたが、彼はそのほかにSTLデータフォーマットも発明しています。

ここでいう光造形というのは、紫外線で硬化する液体樹脂に紫外線レーザを照射して造形するタイプ、すなわちステレオリソグラフィ(Stereolithography)ですので、当時STLデータというのはStereolithographyデータの略称だというのが我々の認識でした。

(余談ですが、Stereolithography方式はSLAあるいはSLと呼ばれているので、SLAデータとはならなかったのかなあ?とこの記事を書きながら思っている次第です。)

STLデータは光造形だけでなく3Dプリンタ全体のデファクトスタンダードとなっているので、STLの意味もStandard Triangulated LanguageとかStandard Tessellation Languageの略称として更新されているようです。

STLデータというのは3次元自由曲面形状を微小な三角平面の集合体として近似表現したデータで、<三角形の3頂点の空間座標とその三角平面の単位法線ベクトル(ベクトルの方向が外側)>の集合体となります。なぜこのデータが都合がいいかというと、3Dプリンタでは三次元形状をZ軸方向にスライスして各層の断面形状を求めますが、平面の集合体だと3次元形状の水平断面は水平面と三角平面の交線をつないだ多角形となるため計算が非常に簡単になるからですね。

自由曲面と平面の交わる曲線を求めるという計算は相当難しいのだろうなということは想像がつきます。

当然、曲面を多面体近似するのですから、滑らかに見える面を造ろうとすると限りなく小さな三角平面の集合体にする必要があり、処理能力の低い昔のコンピュータではそれにも限界がありました。

データの品質とこれから

 STLデータは3Dプリンタのデファクトスタンダードとなっているので、ほとんどのCADがSTLフォーマットでデータを出力できます。

以前は、CADによって出力するSTLデータの品質に大きな違いがありました。特に昔のサーフェースタイプのCADから出るSTLは欠陥が多かったように思います。

STLの欠陥とは三角平面の頂点同士が離れて隙間があいたり、法線ベクトルが逆方向になってその三角平面が欠落したりして、結果としてある断面の輪郭の一部がつながらず閉じた輪郭にならないというものや、やたら三角平面の数が多いのにきれいな曲面近似になっていないとかいうものです。

したがって、3Dプリンタのデータ作成にはそのようなSTLデータの欠陥を修復するツールが不可欠でした。

今はソリッドベースのCADがほとんどなので状況も変わっているのかなと思いますが、うちのアプリケーションエンジニアは今でもSTL修復ツールを頻繁に使っているようです。

3Dプリンタの多様化が進むにつれ、色情報や材料情報、さらには今では想像もつかない付加情報も必要となるでしょう。

座標情報しか持たないSTLデータは将来、過去の思い出になっているかもしれませんね。興味深いことです。 


著者紹介

前田 寿彦/ Toshihiko MAEDA




略歴

1952年 大阪生まれ

1977年 大阪府立大学大学院工学研究科船舶工学 修士課程修了

1978年 日立造船情報システム(株)入社

1991年 海外事業部部長

1993年 独EOS社と積層造形装置の日本国内における独占販売契約締結。

     以後、EOS社の積層造形装置の事業推進に従事し、現在に至る。

2021年 2月1日現在

    (株)NTTデータ ザムテクノロジーズ ソリューション統括部 技術部

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