アディティブ・マニュファクチャリングの品質管理
金属3Dプリンターによる金属積層造形(以下、金属AM)は、レーザーで粉末材料を溶接しながら造形をしていく技術であり、
後工程の検査で品質の検証が十分にはできません。そのため、金属AMは製造プロセスにより品質保証を行う「特殊工程」に該当します。
つまり、「モノを作り出す過程の諸条件が、良品が作れる範囲内で安定していること」が必要です。
品質管理の目的
皆さんが考える品質管理は以下のどちらでしょうか?
供給する製品が、
a) 図面や仕様書通りに出荷品ができているか確認すること
b) 図面や仕様書通りに安定生産できているか確認すること
それぞれについて説明していきます。
a) 図面や仕様書通りに出荷品ができているか確認すること
寸法を例に挙げると、『図面公差内に収まっていれば問題ない』ということです。
公差範囲ギリギリでも問題ないわけですが、これを実証するには100%検査が必要です。
b) 図面や仕様書通りに安定生産できているか確認すること
『図面公差内に収まる工程を確立・維持』するということです。
製品はバラツキを持っています。そのバラツキを小さくすることで、安定(統計的不良予測範囲内)して生産できることになります。
「確立・維持する」ということは、測定値のモニターとそのフィードバックによる工程の改善を行うことです。
品質管理は誰の要求なのか?
先ほどの a) の考えを持っている会社で、良く勘違いされているのが
「品質管理は顧客の要求である」ということです。
顧客は、図面や仕様書通りのものを、「より安く」納入してもらえれば良いのです。
より安く提供するために、全数検査はできません。
できないが、(限りなく)良品であることを保証する必要がある。
これは供給者の責任であり、品質管理は供給者自身の要求なのです。
ですから、弊社の品質方針の1つは
「品質管理は当社(自ら)の要求によって行い、品質保証を確実なものとし常に顧客満足を追求する。」 としています。
品質管理は誰がする?
なぜ、顧客は我々の品質管理に口出しするのでしょう?
理由は、
● 不良品で自社の生産計画や納期遅れなどを未然に防ぎたい
● 受入検査に時間とコストを掛けたくない
のです。
そこで、「サプライヤは品質管理をしているはず」だから、そこから情報を得ようとします。
また、効率よく確認するために、自社の方法を適用させようと口出しするのです。
顧客はサプライヤ品質を「ウォッチ」しているのであって、「管理」しているのではありません。
統計的品質管理(SPC管理)
限りなく良品であることを保証する=製品のバラツキを推定するために、多くの企業で統計的管理が採用されています。
Cpk(工程能力指数)という指標を簡単に説明すると
Cpk0.67=不良率4.5% =5/100個の不良
Cpk1.00=0.27%(2,700ppm)=3/1,000個の不良
Cpk1.33=0.0063%(63ppm) =6/100,000個の不良
『100%良品は無理だけど、10万台で6個の不良なら許容する』という考え方です。
航空機部品などは物にもよりますが、最低Cpk1.33以上が必要です。
中には公差レンジの70%で管理することを要求されることもあります。
品質管理の必要性
量産品の製造を受注するということは品質管理(安定生産)ができるということです。
国際標準的なものでなくとも、自社の管理水準を持つ。
これで、初めて顧客と品質保証について議論ができるのです。
自社の製品群にとって、妥当性のある管理目標はどこでしょう?
新規受注の場合、必要な管理基準はどれでしょう?
不良率は低いほうが良いわけですが、母数やコストおよび要求性能を考慮して考えることが現実的です。
終わりに
製造をしている以上、全くの無検査、無管理は有り得ないと思います。
その測定値を、単なる数値でおわらせるか? それともデータとして活用するのかは、我々次第です。
『標準的な管理手法の要求を満たせないからできない』のではなく、検査数量が少なくてもデータ処理してみることが大切だと思います。
安定的な工程をリリースするという概念が根付けば、品質管理は大きなステップアップを迎えます。