前報①で、水素脆性についてご紹介しましたが、実際に弊社ではどのように合金を研究・開発しているかをご紹介します。
SUS316Lよりも耐水素脆性かつ高強度化させた材料としてSUH660が有名です。SUS316LよりもNi量を増加させ、更にTi、Alを添加しているので、適切な熱処理によって金属間化合物を析出させ強度を担保させる材料です。これ以外に、各社が開発した材料として、HRX19(日本製鉄株式会社)、EXEO-316(株式会社不二越)、HYBREM-S(日本精線株式会社)等がありますが、いずれも共通して耐水素脆性に優れるNi当量を含んでいます。
ここで注意すべきことは、先述したこれらの材料が金属AM(金属粉末積層造形/金属3Dプリンター)にそのまま転用できるかということです。 その原因の1つを例に挙げます。
図1のシェフラーの組織図とは、オーステナイト系ステンレス鋼溶接金属中のフェライト組織の含有量を予測するために用いられている組織図です。Ni当量とCr当量から組織の状態が予測できます。SUH660は凡そ、図1の青い点に位置するので、オーステナイト単相ということがこの組織図から分かります。よって、特徴の一つである高温割れを避けるために不純物の低減に注意を払う必要があるという事も分かります。
一方、この組織図にはCR(冷却速度)が考慮されていません。このシェフラーの組織図は通常溶接金属のCRであり、金属AMの場合のCR(凡そ10⁵~10⁶K/s)とは大きく異なります。金属AMの場合のCRを考慮すると、オーステナイトとオーステナイト+フェライトの境界が図2の赤線のように寝てくるので、造形後の組織が想定していた組織と異なることもあり得ます。
このように、粉末組成と冷却速度(造形条件、熱処理)によって組織が変化するということを理解し、 金属AMに適した材料を開発することが重要になります。
(Ni:ニッケル、Ti:チタン、Al:アルミニウム、Cr:クロム)
※弊社では日々、金属の材料開発に取り組んでおりますので、ご興味のある方はぜひ以下のページもご覧ください。