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2023.11.13

DSC装置を利用した熱処理温度の推測 【EOS 金属3Dプリンター】

 今回は弊社でおこなっている熱処理条件の最適化方法の一例をご紹介いたします。
示差走査熱量計(DSC)は、温度を連続的に変化させたときに生じるサンプルの吸熱・発熱反応を定量的に測定する装置です。
示差走査熱量計(DSC)
 測定によって得られるグラフは図1のような曲線になります。
昇温中、サンプルに吸熱・発熱反応が起こらなければ、標準試料とサンプル間の温度差は一定になるため、DSC曲線は(a)のようにフラットになります。しかしサンプルに吸熱反応が起こると、熱エネルギーは吸熱反応の為に消費されるため、サンプルの温度上昇は止まります。この間、標準試料は設定した温度まで上昇し続けるので、サンプルと標準試料の温度差は開き、サンプルの反応が終了するとこの温度差は緩和されていきます。そのため標準試料とサンプルの温度差をプロットすると、(b)のように吸熱反応はベースラインに対して下向きのピークを示すことになります。サンプルに発熱反応が起きた場合は、(c)のように逆の反応が起きます。
図1 DSC曲線(TA InstrumentsのHPより抜粋)
 一方、金属AM(金属積層造形)後の造形体は、As built と言われる造形ままでその材料がもつ特性を発揮することはほとんどありません。造形時の熱収縮から生じる歪み除去はもちろん、材料によっては溶体化熱処理、析出させる元素を含む場合は時効熱処理、硬さや靭性を調節したい場合は焼き入れ・焼き戻し等、鋳造材で一般的にされている熱処理を実施する必要があります。

金属AMでよく使用されるマルエージング鋼、Ni基Alloy718(ニッケル基超合金、IN718相当)やAlSi10Mg(アルミニウム合金)はそれらの熱処理条件が明確になっていますが、文献や教科書に記載されていない材料では、適した熱処理条件を見つける必要があります。そのため、弊社では熱処理条件を見出すためのツールの1つとして、DSC装置を利用しています。
 図2に弊社で使用している一般的なマルエージング鋼粉末のDSC曲線を示します。
図2 マルエージング鋼粉末のDSC曲線
昇温過程では約500℃から740℃にかけて3箇所にピークを確認できました。
各ピークにおける要因は、 

 ・499.5℃・・・金属間化合物の析出 
 ・677.9℃・・・As点(マルテンサイトからオーステナイトへの変態開始点) 
 ・740.4℃・・・Af点(マルテンサイトからオーステナイトへの変態終了点) 

と推測でき、文献等と一致します。 


これにより、金属間化合物を析出させて強度を出したい場合は、約500℃以上で熱処理する必要があると分かります。
さらに約670℃以上で熱処理した場合は、マトリックス組織であるマルテンサイトがオーステナイトに変わるため強度が極端に低下するという事も分かります。このように、DSC装置を用いることで熱処理条件の最適化が簡便になる可能性があります。  

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