金属3Dプリンター(金属AM)でよく使用される材料の1つとしてマルエージング鋼があります。
オーステナイト化温度から冷却させてマルテンサイト化させた後に、時効熱処理(エージング)させることで高強度が達成できる材料です。
今回はマルエージング鋼の機械的特性と材料本来の強度を発揮させるために理解しておきたい点を紹介します。
マルエージング鋼は含有するNi量と強度によって表1の様に分類されますが、EOS標準材料 MS1(EOS MaragingSteel MS1)は18%Niの2000MPa級に該当します。
表2にEOSウェブサイトに記載されているMS1の熱処理条件と機械的特性の一例を示します。
金属AMの場合、造形直後の組織は残留γ(オーステナイト)を含んだマルテンサイト組織なので、溶体化熱処理(940℃×2hr,A.C.)を実施して完全にマルテンサイト化させます。その後、時効熱処理(490℃×6hr,A.C.)で析出硬化相を析出させて強度を発揮させます。
マルエージング鋼を構成する元素の中で、Ni、Mo、Ti、Al は析出硬化に寄与しますが、Co は析出硬化に寄与しにくいと言われています。CoはMoの固溶限を下げるためだけに含有しているという報告をしている論文もあります。
図1は18Niマルエージング鋼のCo、Mo、Ti、Al添加量における影響を示しています。
Al、Tiは含有量をわずかに変化させただけでも時効硬化への寄与率が大きく変化しますが、Mo、Coは含有量を変化させてもそれほど寄与率に変化がみられないことが分かります。この結果から判断すると、マルエージング鋼のAl、Ti含有量を増加させれば高強度化が達成できると考えられますが、図2の酸化物の安定度が分かるエリンガムダイアグラムを見るとAl、Tiは酸化物を形成し易い事が分かります。微細分散していない酸化物は疲労強度を大きく低減させるため、Al、Ti含有量を大きく変化させることは逆に特性を悪くさせることに繋がります。
適した組成のマルエージング鋼に適した熱処理を実施することが、マルエージング鋼本来の特性を発揮させるには重要です。
Ni:ニッケル、Mo:モリブデン、Ti:チタン、Al:アルミニウム、Co:コバルト
A.C.:空気冷却