将来的なエネルギー源として水素が期待されており、水素社会の実現に向けた取り組みが加速しています。
事実、欧州や米国は数千億円規模の投資を国家戦略として取り組んでいます。国内では、経済産業省資源エネルギー庁が、目指すべきターゲットや達成に向けた取り組みを具体化し、ロードマップとして発表しています。また弊社でもカーボンニュートラルへの貢献を目指し、2022年2月よりAMGTAに加入しています。
さて、水素は非常にクリーンなエネルギー源ですが、使用環境が高圧水素環境下になると、材料内部にある水素が影響して金属を脆化させ易くなります。これを一般的に水素脆化と呼ばれており、このような理由から、現行の水素ステーションの高圧配管には耐水素脆性のあるSUS316やSUS316Lのステンレス鋼が使用されています。
しかし、耐水素脆性材料であるSUS316やSUS316Lは強度が高くないため、強度を担保させるために配管の肉厚を厚くするなどの対応が必要になります。図1にSUS304LとSUS316LのRT、45MPa水素中のSSRT後の破面(破断面)を示します。 (RT:Room Temperature、室温) (SSRT:Slow Strain Rate Technique、低ひずみ速度引張試験)
SUS304Lでは絞りが小さく破面も脆性的ですが、SUS316Lでは絞りが大きく破面も延性的であることが分かります。 この事から、耐水素脆性材としてSUS316Lが使用されていることが分かるかと思います。
次にオーステナイト系ステンレス鋼の水素脆性特性を示す指標として、Ni当量で管理するのが一般的であり、 図2にその一例を示します。
縦軸の相対破断絞りは常温時に対する絞り値であり、数値が高いほど耐水素脆性は良好です。 また、横軸のNi当量 ( [Ni]+0.65[Cr]+0.98[Mo]+1.05[Mn]+0.35[Si]+12.6[C] ) が、30~45%であれば水素脆化が起こり難く、30%以下ではひずみ誘起マルテンサイト相の影響を、45%以上ではNi水素化合物の影響を受けやすいと言われています。 この図から分かる通り、SUS304Lは相対破断絞り値が低いため耐水素脆性は良くありません。 一方、SUS316LやSUS316は、SUS304Lと比較すると相対破断絞り値が高いため耐水素脆性が良いということが分かります。
1) 材料と環境, 60, 241-247(2011) 2) まてりあ, 第57巻 第2号(2018) (Ni:ニッケル、Cr:クロム、Mo:モリブデン、Mn:マンガン、Si:シリコン、C:炭素)