作業の様子

製品活用事例CASE STUDY

2023.05.25

A. MMG(モトメカニックガレージ) 様

金属3Dプリンター製シリンダーの製作 / HONDA CR110

EOS

2023年4月30日に「2023@GoodOldays」が開催されました。
イベントには、金属3Dプリンター EOS M 290で造形したパーツを実装させたレジェンドバイク、CR110もエントリー。
雑誌『モトメカニック』の編集長 田口勝己様に、3Dプリンターでのパーツ製作の裏側を語っていただきました。

(GoodOldays2023当日の様子をリポート記事はこちら)

 CONTENTS

  • 私、田口とXAMとの出逢い
  • 金属部品 = アルミ部品 と3Dプリンター
  • 何故!? CR110レーシングの部品をチョイスしたのか……
  • EOS社製3Dプリンター
  • CR110に組み込んだアルミ製3Dプリンター
  • 金属部品を製作できる3Dプリンターの可能性
  • 私、田口とXAMとの出逢い

     3Dプリンター技術がニューモデルの開発に積極採用され始めたのがいつ頃なのか!? それは詳しく知りませんが、ぼく自身が3Dプリンター技術を目の当たりにしたのは、イタリアのドゥカティ社開発部門の取材時でした。WSBKワークスマシン、MotoGPワークスマシン、市販ニューモデル開発の現場を取材した際に、3Dプリンターで製作された様々なパーツがあり、その開発現場を取材したのが2003年度末のことでした。
    
    翌2004年の取材時には、3Dプリンターで作られた樹脂製のエンジンコンプリートを取材させていただきました。ドゥカティの開発陣によれば「今は樹脂部品を3Dプリンター製作することでデザイン検討をしているが、将来的には金属部品を3Dプリンターで作れる時代がやってくるだろう」といったお話を伺い、技術の進化を妄想したものでした。
    そんな3Dプリンターとの出逢いから15年が経過した2018年当時、とある縁でNTTデータ ザムテクノロジーズ(XAM)社のスタッフとお話できる機会があり「エンジン部品を作ってみませんか!?」とのお誘いを受けました。もちろん「是非是非!!」とお返事したのは言うまでもありません。
    3Dプリンター エンジン

    2004年にドゥカティ社の開発部門を取材した際に見せて頂いた3Dプリ
    ンターで製作した樹脂部品を組み立てたエンジンコンプリートと、デ
    ザイン検討を経たのちに製造された本物エンジン。ドゥカティD16RR
    と呼ばれたデスモセディチエンジンの開発途中のレアな画像。当時は
    ドゥカティ専門誌の編集者でもあったので、年に数度はイタリアのボ
    ローニャ本社を訪ねていました。

    金属部品 = アルミ部品 と3Dプリンター

     2018年当時、ザムテクノロジーズ社のラボを訪ねた時に、3Dプリンターで製作された様々な分野の部品を目の当たりにしました。
    ぼくらが考えていた以上に、3Dプリンター技術は素晴らしく、まさに驚きの連続でした。そんなサンプル商品の中には、アルミ製部品はもちろん、その他の金属マテリアルで造形された部品もあり、そんな部品群を目の当たりにしたときに「エンジンカバー程度なら、難なく作れそう!?」などと妄想しました。そんな印象を技術スタッフの方に素直にぶつけると、驚きの返事が……。「エンジンカバー類なら難しくはありません。機能部品でも、製造可能です」といった驚きの内容でした。

    何故!? CR110レーシングの部品をチョイスしたのか……

     エンジン=内燃機に欠かせない部品がシリンダーです。内燃機関にとって代表的な部品であるシリンダー、それをアルミ製でしかも3Dプリンターで作れたとしたら「これは面白い!!」と考えました。そこで、鋳鉄シリンダー製のスーパーカブ用シリンダーをアルミ製3Dプリンターで作ってみようと、当初は考えました。しかし、せっかく作るのなら、もっとハードルが高い部品、「なんだ、スーパーカブの部品か……」と言われることがない、技術的にも難しいであろうモデル用部品にしてみたらどうだろうと考えました。
    そんな矢先に、バイク仲間のガレージを訪ねると、ホンダカブレーシングCR110のエンジンをオーバーホール中でした。そんな作業の様子を見ながら「CR110のシリンダー、3Dプリンターで作ってみませんか!?」なんてお話をすると「そんなことできるの!? 部品が必要なら、貸してあげようか?」といったお話まで……。世界的に見ても高性能市販ロードレーサーとして高く評価されているのが、1962年に登場したホンダのカブレーシングCR110です。そんなモデルのシリンダーを3Dプリンター技術で作ることができれば、誰もがその技術的素晴らしさを理解してくれるだろうと考えたのでした。
    CR110シリーズには、5速ギヤと8速ギヤのキック付ストリート仕様、5速のストリート仕様をベースにしたレース仕様、8速ギヤの完全ロードレース仕様の前期モデルと後期モデルがあり、シリンダーひとつとっても様々な仕様があります。今回、ザムテクノロジーズ社さんのご協力を得て製作したシリンダーは、最終型の8速レーシングエンジン用になります。市販車の世界でも勝利を追求したホンダは、1962年シーズンだけでも仕様変更を繰り返し行い、ロードレーサーとしての戦闘力を高めていったのです。
    金属3Dプリンター アルミニウム シリンダー 自動車 事例①
    ザムテクノロジーズ社のラボで造形された3Dプリンター製シリンダー。
    アルミ粉末をレーザー光線で溶かして積層造形する最先端技術を用いている。(左:造形直後、右:後処理後)
    CR110への3Dプリンター適用

    リフト上のカブレーシングCR110に対して、同じ1962年製造のホンダスーパーカブC100。
    究極のレーシングマシンVS世界戦略の普及モデル。CR110エンジンのシリンダーでアルミ製3Dプリンター化が実現できれば、他のモデルに於ける技術的ハードルは低いと考えた。

    EOS社製3Dプリンター

     ザムテクノロジーズ社は、様々な金属マテリアルの部品製作を可能にするドイツEOS社製3Dプリンターの日本の代理店。我々が想像した通り、宇宙開発の世界や最先端医療の分野でも注目されているのがEOS社製3Dプリンターで、ザムテクノロジーズ社のラボを訪ねると、金属マテリアルだけではなく、様々な需要に対応した数多くのマシンが稼働していた。実は、CR110のシリンダー製作プロジェクトに入る前に、市販ロードバイク用純正キャブレターのフロートチャンバーをベースに、大型ドレン付きのフロートチャンバーを製作してみようというお話になった。大型ドレンがあることで、フロートチャンバー本体を取り外すことなくメインジェットを交換できる、つまりレーシングキャブレターのような市販ロードバイク用フロートチャンバーを作ってみよう、となった。ボアアップやエンジンチューニングを実践した際に、市販車用のノーマルキャブでも、後々の「セッティング変更が容易になるパーツがあれば助かる」と考えたからだ。
    後日、ラボを訪ねると、ぼくらが希望した通りの仕様でパーツは完成していた。車体からキャブ本体を取り外すことなく、容易にメインジェット交換できるその仕様は、エンジンチューナーやカスタム愛好家にとっては夢のようなパーツでもあった。
    そんなスペシャルパーツの完成度を見たことで、CR110用アルミ3D製シリンダーの開発も、時間の問題だと確信することができた。

    CR110に組み込んだアルミ製3Dプリンター

     プロジェクト当初は、寸法確認用に出力された3Dプリンター製アルミシリンダーを受け取り、実際に組み込むにあたっての確認や懸案内容を具体的にまとめて、ザムテクノロジーズ社の開発スタッフへ相談した。われわれの疑問や要望に対して、明確な回答を頂きつつ、変更内容を反映したアルミ3Dプリンター製シリンダーが後に完成した。一般的な4ストロークエンジンとは異なり、CR110のエンジンには、カムギヤトレインが採用されている。したがって、アイドルローラーやアイドルギヤ式のカムチェーンエンジンシリンダーとは異なり、アイドルギヤの支点シャフトをマウントしなくてはいけない(シリンダーバレルへダイレクトに締め付ける仕様)。ネジ部分の強度は大丈夫なのか!? 締め付けトルク管理はできるのか!? 不安要素は数多くあった。
    しかし、そんな心配はご無用だった。シリンダーの高さがカムギヤトレインのバックラッシュ値を決定するが、実走行後の分解点検でも、当初のデータに違いは無く、安定した状況下で組み立て復元できることを確認。実走行テストでは、常用1万3000rpmという高回転領域で走行し、何事も無く安定走行している様子は、晴天時のイベント見学者にもしっかりご覧いただくことができている。
    CR110への3Dプリンター適用②

    天候に恵まれた2018年のGoodOldaysでは、カウリングレスの
    クラブマンレーサー仕様でモビリティリゾートもてぎの国際
    レーシングコースを走ったカブレーシングCR110。

    CR110への3Dプリンター適用③
    カブレーシングCR110の1962年最終型。アップデートとともに戦闘力が高められ、中期型エンジン以降では、
    ボア×ストロークも改められている。純正シリンダーを3Dスキャナーでデータ取りしているため、アルミ砂型
    製造の風合いも見事再現されている。
    降雨で走れなかったため、ピットで火入れ音出しを行い、
    そのメガホンサウンドをご体感していただいた。

    金属部品を製作できる3Dプリンターの可能性

     電気自動車や電動バイクの普及とともに、内燃機=エンジンを搭載したモデルの将来がおおいに気になる。事実、年毎に補修部品や純正部品の供給が減りつつある。まだまだ様々なハードルが高く、しかも数多くあるのは理解しているが、今後将来的に、エンジン部品でも車体部品でも、3Dプリンターが活躍できる場面は数多くあると考えられる。
    ザムテクノロジーズ社のスタッフによれば「3Dプリンター技術は、もはやプロトタイプの開発や少量&小ロット製造のためだけの技術ではありません」といったお話を伺うことができる。例えば、今回のテストケースで製作したCR110用シリンダーなどは、世界的に見ても、スペアパーツが潤沢なことは一切無く、使える部品を見つけ出すこと自体が極めて難しい。しかし、このような3Dプリンター技術が普及することによって、部品の復刻製造は可能になる。仮に「シリンダーヘッドの復刻製造が可能」になったなら、燃焼室を潰してしまって、すでに走行不能な何台ものエンジンが復活蘇生できるのではないかと考えられる。

    廃版部品もデジタルデータ化することで、いつでも動態保存できる品質でパーツの製造が可能であり、
    3Dプリンターの技術はレジェンドバイクを次世代に遺すことに貢献しています。

    関連情報:

    2023@GoodOldays

    モトメカニックの公式ホームページ
    過去のニュース:金属3Dプリンターを使ったレストアについて

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