『焼結』と『溶融』
粉末材料をレーザの熱エネルギーで一層一層固める方式の3Dプリンタは、選択的レーザ焼結(Selective Laser Sintering: SLS)方式としてDTM社が最初に商品化し、EOS社も同じ方式の3DプリンタをEOSINT*シリーズとして商品化しています。
*EOSINT:EOS + Sintering(=焼結)
両社とも焼結(Sintering)による粉末の固化という認識だったのでしょう。
(当時は粉末材料を溶融固化するほどのエネルギーを投与できなかったのでしょうか?)
SLSはDTM社の登録商標でありましたので、私共はレーザ焼結法とか粉末焼結法ということでEOSINTシリーズを紹介してきました。
ですが、『焼結』という言葉が実際にEOSINTで造形するパーツの特性を正しく表現しているか?というと、どうも違うなあという心地の悪さが私自身にはずっとありました。
特に金属造形が普及するにつれ、お客様に対しても、”実は完全に溶融しているんですよ”という注釈を付け加えることが常となりました。どうしてもレーザ焼結法という長年使ってきた言葉が、お客様に間違ったメッセージを伝えてしまうことが避けられないようでした。
PBFとしての認識の広まり
昨今、この方式が粉末床溶融結合(Powder Bed Fusion:PBF)として認識されつつあるのは非常にうれしいかぎりです。
EOS社も、例えば以前のEOSINT M280から最近のEOS M 290 というように製品名からSinteringを意味する部分を取り去っています。やはり高密度で造形できるEOSの利点を阻害する印象を与えると考えたのでしょうか。
当然、投入するエネルギー量の調節次第で焼結に近い状態から溶融状態まで対応可能だと思われますが、金属造形の場合はほとんどのアプリケーションが強度と密度が重要な評価項目となるので、粉末を空孔なしにいかに溶融再凝固させるかが、装置とオペレータの腕の見せ所かなあと思います。
ポリマーの造形物に関しては、精度や強度以外に造形時間、気密性、液密性、重量などが評価項目となるので、焼結状態のパーツが好まれる場合もあるのかなあと思います。
いずれにしても、パラメータの設定次第で振れ幅の大きな部品が作れるレーザを使ったPBF方式の3Dプリンタの適用範囲は広いのかなあと考える次第です。
著者紹介
略歴
1952年 大阪生まれ
1977年 大阪府立大学大学院工学研究科船舶工学 修士課程修了
1978年 日立造船情報システム(株)入社
1991年 海外事業部部長
1993年 独EOS社と積層造形装置の日本国内における独占販売契約締結。
以後、EOS社の積層造形装置の事業推進に従事し、現在に至る。
2021年 2月1日現在
(株)NTTデータ ザムテクノロジーズ ソリューション統括部 技術部