金属3Dプリンターで造形する工程のなかで原料粉末の選定というのは、良い造形体を作製するための重要な因子の一つになります。 弊社ではEOS社の材料以外の調査も日々行っていますので、今回はニッケル基超合金の比較調査についてお話いたします。
パウダーベッド方式をはじめ多くの金属3Dプリンターでは、ガスアトマイズ粉末という不活性ガスを高圧で噴射してつくられた粉末を原料とすることが多いです。しかし、より流動性を担保させる目的として、金属ワイヤーにプラズマを噴射してつくられる真球に近い形状をもつプラズマアトマイズ粉末を使用することもあります。
表1に、海外メーカー5社から購入したSLM用Ni基超合金ALLOY 718(ニッケル基超合金、IN718相当)の ガスアトマイズ粉末とプラズマアトマイズ粉末の外観写真を示します。
ガスアトマイズ粉末はプラズマアトマイズ粉末と比較すると、歪な形状をした粉末があり、またサテライトといわれる付着物が多くみられます。 一方、プラズマアトマイズ粉末にも歪な形状をした粉末がありますが、絶対数はガスアトマイズ粉末と比較すると少ないことがわかります。 また、同じガスアトマイズ粉末でもA、B社の様に微粉が多いものもあれば、C社製の様に粒径が比較的揃っているものもあります。 図1に、レーザー回折・散乱式 で測定した粉末の粒度分布を示します。
ガスアトマイズ粉末であるA、B社は裾野が広がった形状をしていますが、C社はA、B社と異なったシャープな形状をしています。 一方、プラズマアトマイズ粉末であるD、E社は裾野が狭くシャープな形状をしています。C社はガスアトマイズ粉末でありながら、粒度分布はプラズマアトマイズ粉末に似た形状をしていることがわかります。
表2に、粉末の流動性を表すHausner比と流動度を示します。 Hausner比は、タップ密度/見掛け密度より算出しており、1に近いほど流動性が良いという指標になります。 流動度は、粉末50gが漏斗を流れ落ちる時間であり、数値が小さいほど流動性が優れます。
タップ密度(g/cm3) | 見掛け密度(g/cm3) | Hausner比 | 流動度(s/50cc) | |
---|---|---|---|---|
A社 | 5.40 | 4.05 | 1.33 | 流動せず |
B社 | 5.10 | 3.92 | 1.30 | 流動せず |
C社 | 5.20 | 4.46 | 1.17 | 16.3 |
D社 | 5.20 | 4.45 | 1.17 | 13.0 |
E社 | 5.30 | 4.51 | 1.18 | 13.7 |
Hausner比をみると、A、B社は約1.3、C・D・E社は約1.2と2極化しており、図1の粒度分布の結果と同じ傾向であることがわかります。 一方、流動度に関しては、A、B社は流動せず、C社は16.3 s/50cc、D、E社は13~14 s/50ccであり、C社とD、E社に明確な違いが確認 できました。これより、C社の外観はD、E社と同様に見えていても、実際に粉末を流動させた時には差があるという事が言えます。
同じ鋼種の粉末であっても、ガスアトマイズ粉末とプラズマアトマイズ粉末ではこのように外観や流動性が異なることがあるため、 形状や流動性が優れた材料を使用することが重要になります。