鳥取県倉吉市にて歯科技工所を営む有限会社倉繁歯科技工所様が、EOS製金属積層造形装置(金属3Dプリンター)EOS M 100を導入した事例をご紹介します。
(画像の出所は一部、有限会社倉繁歯科技工所様より)
歯科技工業界の現状
歯科技工士の人材の枯渇
有限会社 倉繁歯科技工所 取締役 倉繁 竜士 様
現在、歯科技工士という人材は大変枯渇している状況です。 業界の半数が50歳以上と言われているような状況のなか、これからの10年20年を見ると 今のやり方を続けていっても間違いなく受注に応えることが難しくなるでしょう。 人材のそういった課題の大きな局面というか、ターニングポイントに来ています。 私たちの技工所に集まる声としては、近場の技工所が廃業するので代わりに仕事を受けてくれないか、 近場の技工所が仕事を受けてくれなくなってしまったから仕事を頼みたい、 老齢になってきて事業縮小するから「倉繁頼む」といったお声をいただいています。 特にこの地方に関してはすごく疲弊していっている状況なのかなという風に感じています。
歯科技工業界をリブランディング
負担の大きい金属の作業
倉繁 竜士様:
歯科技工業務の中で、最も労働負担の高い作業が金属を扱う工程です。この工程には鋳造から研磨、適合と呼ばれる作業があり、歯科技工士の技術力が認められる要素である反面、そこに忙殺されている現実もあります。
さらにこの技術が、熟練技工士から若手へとなかなか繋げることができていない。結果的には老齢技工士に頼りきりの工程となってしまっています。また、他社の状況を見ると個人経営の技工所さんでは必ずしも金属を扱う工程を分担制にできる訳ではないので、残業になってしまったり社員さんが辞める要因になってしまっているという側面もあります。
そういった課題を抱えているこの業界で現場に対して何か改善できないだろうか、リブランディングできないだろうか、と考えていたタイミングで金属3Dプリンター(金属AM)というものが活用されているという記事に出会い、これだったら間違いなく歯科技工士の業務負担を改善できるという確信をもって、情報収集を進めてきました。
新たな技術、金属3Dプリンターの導入
事業再構築補助金制度の活用
倉繁 竜士様: 私がこの歯科技工業界、家業に転身してきたのが、もう7年前になります。当時から金属を扱う工程が大変だと社員が言っているところは見てきました。その解決策として当社としては先に金属の研磨機DLyteに着手しました。これで研磨の工程を担うことが出来るため、だいぶ金属を扱う工程が楽になりました。もともと「金属AMを絶対に取り入れて脱鋳造を図りたい」という目標があったので、そこから更に、もうひと押し、というところで金属AM装置の導入を検討するフェーズへと移行しました。 ただ、産業用の金属AM装置はすごく高額で、なかなか我々一企業が逆立ちしても手に入るようなものではありません。それがこの度、経産省からの事業再構築補助金という制度が新設されたので、この制度を利用して金属AMを用いた同業他社からの受託造形事業をおこなう、という考えにたどりつきました。申請した結果ありがたいことに採択していただいて、2022年8月に1台目の導入に至りました。 さらにこの導入した設備で、もし受注が間に合わなくなってしまった場合、もしくは装置が故障してしまった場合、そういう時にきちんと納期を守って、同業他社のため、歯科医院のために安定して技工物が供給していける体制を構築する必要がありました。1台目を導入した段階からバックアップ機として、また別鋼種を扱う機器として2台目の導入は頭の中にあったので、当社はこの度2台目を導入しました。 現在その金属AM装置を使って義歯の金属部品の造形を行っております。まずは今、依頼していただいているお取引先に対しての臨床物を扱っており、そこでいろいろとトライ&エラーを繰り返しながらやっているところです。 これが形になれば、同業他社に対して受託造形としての間口を広げていきたいと考えています。
EOSを選んだ理由は何ですか?
倉繁 竜士様: 私自身が金属AMを知るきっかけとなったメーカーがEOSでした。国内の歯科技工所がEOSを用いてすでに歯科技工を行っていたことも同時に知りました。そこから業界について勉強をはじめて海外では既に歯科技工の領域で金属AMが活用されていることや、ヨーロッパの技工所では日本と同様に人材不足という課題があり金属AMをはじめとした機械化・デジタル化を進めていること、EOSは装置販売だけでなく人材育成など広範な事業領域をもって世界の金属AMをリードしていることなどを知りました。また当時は医療機器認可を受けている装置はEOSしかないことも学びました。 こういった経緯があり、最初に導入する装置は絶対にEOS、と考えていました。代理店であるXAMさんに電話をして歯科用のサンプルを拝見させていただき、社内の担当者全員ですごいすごいと感想がありました。 そもそもXAMさん以外から装置を買うことは頭にありませんでした。金属AM技術を体系的に見ておられ、それぞれに対するソリューションを持っている。品質保証に対する取り組みは国内業界の中でトップだと感じております。また既に導入している研磨装置DLyteを通じて担当営業の方をはじめXAMの皆さんへ厚い信頼を寄せていたことが大きな理由としてあります。
金属AMの導入による現場の変化
デジタル化によりミスが最小限に
倉繁 竜士様: 今までは義歯の金属部品を作るときには、石膏模型上にワックスを敷いて型を作って、それを鋳造していました。これは1回作ると同じものはもう二度とできないという状況です。ですので鋳造の過程で、もし欠陥が起きてしまったり鋳造に失敗してしまったりすると、もう1回はじめに立ち返って同じ作業をし直さないといけない。 これが機械化、デジタル化になると同じものを再現するというのは容易になります。 鋳造の際のミスというのも、金属AMでの造形に移すことによって起きづらくなります。もちろん造形によるミスも起こることはありますが、鋳造の比ではないです。 一度作ったものの再現性や、工程中の欠陥、ミスというものを最小限にすることができる。このあたりはかなり楽になっているものではあります。AM導入前は鋳造の作業がどうしても夜間、早朝の業務になっていましたが、導入後は夜中に造形機に指令を出して無人稼働させ、朝方取り出すことができるようになりました。この夜間、早朝の業務を改善できているのを実感しています。
副産物 ― 環境負荷の低減
倉繁 竜士様: 工程中に排出されるゴミというのもかなり削減できています。導入前は1床あたり500gの石膏ゴミが出ていました。それが金属AMを導入して一度の造形でおおよそ6床を造形できるので、約3kgの石膏ゴミの削減になります。1週間で15kg、ひと月で60kg、年間でみると700kgほどの石膏ゴミ削減に繋がっています。 さらに工程中に使用しているシリコンのゴミの削減にも繋がり、かつ鋳造中の排ガスも無くなる。環境意識といえば流行りになってしまいますが、そういったところにもアクセスしていけるような技術だなというのは自負しております。
XAMのサポートについて
倉繁 竜士様: XAMさんには施設の建築計画の段階から加わっていただき、結果的に安心して装置を迎え入れることができました。装置導入に対して分からなかった部分に関しては、XAMさんをはじめ協力を仰いだ同業の方にもアドバイスをいただき、皆さんと一体感をもって導入に進むことができました。
EOS M 100導入後のXAMのメンテナンス・保守サポート体制
倉繁歯科技工所 常務取締役 倉繁 桂子 様
以前、当社のM100装置に最新のバージョンアップをしたいと無理を言ってお願いしました。XAMさんの社内機でもまだ実証確認していないバージョンのため、万が一のトラブルが発生するかもしれないと事前に伺っておりました。
実際、作業の終盤でトラブルが発生してしまった様なのですが、素早い原因究明で復旧作業に尽力していただいたおかげで、当初のスケジュール通りにバージョンアップした装置を稼働できるようになりました。
担当エンジニアの方が責任感を持って真摯に対応くださっている様子を見ているので、心から感謝していますし、感動もしています。
おかげさまでいつも安心してXAMさんの保守サポートを受けています。
今後の課題
人材育成と同業他社との連携
倉繁 竜士様: 課題としているのは、主に人材育成と同業他社との連携。この2つかなと考えています。 人材育成に関しては、金属AMの業務は歯科技工士が通常業務とはちょっと離れたことをやらないといけない。それに対応できる人材を育成していく必要があることが課題の一つ。 もう一つは同業他社との連携。装置を持っている企業と連携を組んでいくことが必要になってくると思ってます。同業他社で喧嘩をして競争しているような状況、競合しているような状況では良くなくて、業界の課題解決のために企業同士が同じ目標を持ってエコシステムを構築していく、手を取り合って協業していくというのが大切になってくるのかなという風に考えています。
同業他社様の反応
倉繁 竜士様: すでに連携が図れている技工所からは好意的な意見をいただいております。弊社がまだまだ品質安定化に向けて知見を蓄えようとしている段階ですので、具体的な業務受託はお断りしておりますが個人の技工所からのサンプル造形依頼なども最近はありますし、既存取引先歯科医院からの依頼も継続的にあります。 東京医科歯科大学さんからは臨床物を継続的に委託いただいており、情報共有を積極的に行っております。 機運は確実に高まってきていると感じています。
3Dプリンターによる技工物に対するドクター、お取引先様の評価
倉繁 竜士様: ドクターにも金属AMで造形した義歯用金属部品(金属床)を実際に手に取ってもらい、以下のような感想をいただきました。 「パッと見たときの率直な感想は、鋳造で製作されたものと大差ないなというものでした。 しかしよく表面を見ると鋳造に比べて、きめ細かいというか、とても潤沢で患者の使用感は改善されるだろうと感じました。 実際に装着した患者さんも喜んでいました。」 「クラスプに鋳巣が入ることによる破折のリスクを改善できる等の利点を聞きました。 長年鋳造と付き合ってきた者として、技術の進歩を感じています。」 「倉繁さんのInstagramで金属AMの造形を見て、うちの金属床にも使ってくれないかなと楽しみにしていました。 地方で最新技術が活用されていることを頼もしく思っています。患者の評判も上々です。」 また、研修医時代に技工を経験したことのあるドクターからは、 「自身も夜遅くまで机にかじりついて技工をしていました。技工士さんの苦労はよく分かっているつもりです。 鋳造は大変ですよね、こうした最新機器で技工の現場の負担が改善されていくと良いですね」といったお声をいただきました。 ほかにも「質感が鋳造品と比べて断然いい」「光沢感がある」「なめらか」といった評価をいただいており、今のところ批判的な声は聞いておりません。
AM×歯科技工に見る夢
技工士のQOLを豊かにしていきたい
倉繁 竜士様: 日本の歯科業界では、まだまだこの金属AMは新しい技術ですので怪しまれているような状況です。ただ、この金属AMで歯科技工士の抱えている金属の労働負担問題を改善できるのであれば、彼らのQOLのためにも率先して使うべき技術だと思っています。 そのためにもやはり同業他社に対して、金属AMという技術を正しく認知してもらう活動というのは必要になってきます。歯科医院さんに対してこの技術はどんなものか、どういうメリットがあるのかを周知させるための市場とのコミュニケーションが大切になってくるのかなと考えています。 その上で同業他社の方々、特に個人で経営されている方や、寝る時間を削り、夜間や土日も仕事をされている地域の方々が、負担に感じている金属を扱う工程を弊社が担うことができれば、少しずつ業界を豊かにしていくのではないか、というふうに考えております。
会社名 | 有限会社倉繁歯科技工所 |
Webサイト | https://lab-kura.com/ |
本社 | 〒682-0034 鳥取県倉吉市大原632-16 |
設立 | 1957年 |
事業内容 | 歯科技工 |
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