純ニッケルには優れた耐食性と高い電導性という特徴があります。一般的に合金化して使用されることが多いですが、純ニッケルとして応用することもあるため、今回は複雑形状と耐食性が求められる部品への適用を目指し、純ニッケルの積層造形の開発を行いました。
図1に、EOS社製の金属粉末積層造形機で造形した純ニッケル積層造形体の断面写真を示します。走査方向の異なるRoスキャン(scan rotation)とXYスキャンの2種類の造形パターンを実施したもので、いずれも面積の充填率は99.97%以上の緻密な造形でした。
図2は、純ニッケル積層造形体のXRD解析結果です。RoスキャンとXYスキャンの積層方向XY面ではFCC相(110)が集積しています。通常の走査方法の場合FCC(100)が積層造形方向で集積していますが、今回はスパッターの影響が最小限になる走査方法のため、通常の積層造形とは異なる組織的異方性があります。
また、Z面ではそれぞれFCC(111)とFCC(100)が集積しています。XYスキャンのZ面はRoスキャンのZ面よりFCC(100)の集積が増加しています。これは走査方法の違いにより、熱勾配が異なることで冷却過程で形成する組織が異なっていると推測されます。
(XRD: X-ray diffraction、X線回析法)
表1ではRoスキャンによるXY方向(Z面)・Z方向(XY面)の造形まま材と焼きなまし純ニッケルの引張特性を示しています。XY方向とZ方向では0.2%耐力において差がないものの、引張強さにおいてはZ方向よりXY方向のほうが高い値でした。これは塑性変形に違いが生じていることを示唆し、XRD解析結果と照らし合わせてみると組織異方性によって変形メカニズムが異なっていると推測できます。
また、結晶粒のアスペクト比がXY方向とZ方向で異なっていることや組織異方性により、破断伸びにおいて違いが生じています。XY方向とZ方向の造形まま材の0.2% 耐力は、焼きなまし純ニッケルと比較して高い数値を示しており、これは造形まま材の残留ひずみにより強化されていると考えられます。今後、積層造形体に熱処理を実施して残留ひずみを除去し、耐食性とその他の物性を評価して、付加価値のある部品へ適用していく予定です。
(Ni:ニッケル)